さらばひとつの青春
なにげなくSNSを開くと、ある少女漫画家さんの訃報が目に飛び込んできた。
一緒にアップされていたコミックの表紙には見覚えがあって、思わず息をのんだ。
お亡くなりになられたのは「くりた陸」さんという漫画家さんでした。
我が家には彼女の代表作である「ゆめ色クッキング」のコミックが、かなりきれいな状態で今も並んでいる。
どれだけ繰り返して読んだか思い出せないほど、何度も読んだ記憶がある。
連載を読んでいたわけではないけれど、確かまだ連載中で、コミックが出るたびに、お小遣いから一生懸命買っていたような記憶がある。
そのコミックは今も静かに私の愛読書の中に並んでいる。
まさか嫁入り道具の中にまで入れてきてたとは、家族も知らないだろう。
時々そっと開く。
はるか遠い少女時代の記憶。
ページをめくるたびに、懐かしい香りがするような気がする。
掲載されているレシピを参考にしてお菓子を作った。
なかには何度も繰り返し作ったものもある。
いまだにクッキーを作るときは、「ゆめ色クッキング」に出てきたレシピを参考にしてしまう。
お蔭さまで、とても不器用で、決して料理が上手ではない私でも、クッキーだけはおいしいと自信を持てるものとなった。
その著者である「くりた陸」さんが、お亡くなりになってしまった。
乳がんを患い、闘病していたなんて全く知らなかった。
だって私は、とっくに少女マンガを読むことを卒業していたから。
いや、少女マンガを読まないわけではない。
いまでもマンガを読むことは大好きで、ときどき購入したりもする。
だけど、もう昔ほどではなかった。
くりた陸さんのSNSをみても実感はわかない。
一番最新の発言は、7/4の早朝に亡くなられたことを告げる旨の文章。
そのひとつ前には6/13にご本人が発信された言葉が。
何日も食べられなくて困っているというくりたさんの発言に対し、フォロワーさんたちが食べられそうなものをいろいろ提案していたようだ。
少し食べられたという言葉が、くりたさんの最後のメッセージだった。
ずっと関わることもないまま、青春時代に置いてきた思い出が、胸の中と頭の中で渋滞する。
SNSの自己紹介の文章の中に、本編で描けなかったパリ編をクラウドファンディングで描きたいというプロジェクトをおこなっていたことが書かれていた。
40歳の母となった主人公のその後の物語。
そうか、主人公と私は同世代だったんだ。
そんなことも知らなかった。
プロジェクトを知っていたら、賛同したのに。
悔しさしか残らない。
ひとつの青春がまた消えた。
でも、今でも手に届くところに「ゆめ色クッキング」のコミックはある。
ひとつの青春が終わったけど、残っている。
忘れない限り消えはしないのだ。
あのころの私にはもう戻れないけど、ページを開けば思い出があふれ出す。
色褪せたページは、懐かしい記憶と香りを運んでくれる。
幼かったあのころの私に、楽しみを教えてくださって有難うございました。
謹んで哀悼の意を表します。